童貞、というとマイナスなイメージがつきまとっています。
「女性との肉体的経験がない」からはじまり、「⚪︎⚪︎童貞」といったように、何か未体験なことへの蔑称あるいは自虐としても使われます。
男性にとって「童貞」とは、非常にセンシティブなものであり、こと思春期に入ると苦悩と煩悩でいっぱいであり、強烈な潔癖性や優越意識(逆に劣等意識)を抱く……多くの人が経験することです。
童貞というのは、やっかいなものです。
そもそも異性との肉体交渉を経て、「童貞卒業」となると思いがちですが、違います。
それはあくまで物理的な体験を得たに過ぎません。
童貞とは、死ぬまで男の心を侵食するものなんですから、消えることはないのです。
ここで、<童貞>なる言葉を、私なりに定義せねばなりません。
以下のごとくです。
――〈童貞〉とは近現代の産物であり、異性との肉体的接触を有していないという経験以上に、異性を過度に理想化・結晶化せんと欲する脳内的な現象および概念である。くわえて、自己への極端な潔癖意識を抱き、己自身を透き通ったガラス細工の如く、脆くて繊細なものと思い込むことである――
つまり、童貞とは、感覚的=脳内にこびりついた概念なのです。
いわゆる「童貞卒業」といっても、「感覚は童貞」という男性はたくさんいます。
美少女や美女と遭遇して、ペラペラ喋れるチャラ男的な輩はいますが、少数派です。ほとんどの男子は、「かわいい or きれいなだなあ……」と思って目を追うも、結局それで終わり。そして、どこかモヤモヤしながら、街中に消えてゆく……
そんな意味からも、童貞卒業=「童貞心感覚」も卒業、は同義ではありません。
「お前が童貞卒業したしても、童貞はお前のこと忘れてないからな!」
とは有名な格言ですが、そのとおり。
童貞というのは、不治の病であります。と同時に、明白な天命ともいえます。
なぜ、そう言えるか?
「童貞心」というのがあるからです。
童貞心の力……それは感受性が高い印であり、蓄積された土壌と種だねは、淡い陽を浴びて、やがて花ざかりの森を生みます。
何度も言いますが、9割の男性にとって童貞心は死ぬまでまとわりつきます。
特に創作系の人々、マンガ家もイラストレーターも美術家も音楽家も小説家も……
創作家は、往々にして理想主義です。
「なんで、こうならないんだ!」
「なんであの時、こうしなかったんだ!」
「……こうなったら、良いのにな…………世界平和とか、ね……」
と、悶々した ” if ” の千思万考で、それが一生続くのです……
このあたりで、宮沢賢治について言及せねばなりません。
資料を読み解けば、遊郭に行ったとか、実は妹と……という研究がありますが、彼が日本一偉大な童貞だったというのは言うまでもありません。
賢治は言います。
「君、肉慾の乱費は、自殺だよ。でないと、いい仕事はできないんだ」
あの時代、岩手の有力な実業家の長男に生まれた人が、恋人どころか嫁も求めず、しかも生涯童貞を貫いたとされるのは、驚愕に値します。
もちろん、賢治自身の仏教思想や理想郷観によるストイック性、ファンシー性が大きく起因したのでしょうが……
いずれにせよ賢治の童貞喪失云々の真偽はともかく、強烈な童貞心を彼は抱いていた。それは生き方、作品双方に随所確認できます。
わたしは思うのです。
「童貞心」というのはやっかないなものだが、生涯大切にすべきではないか?
そもそも、これを苦悩にする必要はないのではないか?
「でも、女性と一度ぐらいは……」
と、思い悩む方もおられるでしょう。
でも簡単です。
唯物論的に考えれば、高級な風俗に行ってコトを済ませれば良いのです。
風俗を卑下する人は多いですが、何を言っているやら。人類最古の職業を否定するというのでしょうか。
「いや、でも素人の方と……」
と言うのであれば、マッチングアプリでも街中でもなんでも良いからアタックするしかありません。
物理的には素人だろうが、玄人だろうが変わらないんですけどね。まあ、気持ちの問題はありますが。
「素人でも、意中の人と……」
それは、あきらめましょう。
そうでないと、精神を病んでしまいます。
そもそも、童貞心を有す我々男子の「想い人」というのは、超絶理想的であります。
幼馴染が思春期になって気づけばその人に「異性」を見てしまい、その呪縛にとらわれている……そんなことはよくあること。
でも、それが成就するなんて、DNA鑑定並みにないんですね。
橋本環奈みたいな同級生がいたとしても、まず振り向いてくれませんからね……もし一緒になれたら、それは神の気まぐれだ、と無神論者のわたしですら思いますから。
そんなモヤモヤとした残酷な現実に対し、ひとつ解決法があります。
創作することです。
ギターをかき鳴らすのも良いし、絵や文章を書き殴るのも良いです。
先の宮沢賢治しかり、アイザック・ニュートンもイマヌエル・カントも生涯童貞だったとされます。
そして、偉大な功績を人類史に刻み、世界を変えました。
その根底には、「強烈な童貞心があったからだ」と、私は強く信じます。
わたしを含め、童貞心を抱き続けている者に言いたいのは、それはコンプレックスにするものではない、むしろプラスになるものだ、ということです。それを宇宙の中心で叫びたい。
だからそう、あなたにしかない、宇宙でひとつだけの童貞心をもう一度——
It might go on…