私は今年2021年からF1視聴を始めました。
見始めたきっかけはF1ドライバーには賛否両論あるNETFLIX制作のドキュメンタリー、「Drive to Survive」(Formula 1: 栄光のグランプリ)です。
人並みに「頭文字D」にハマったり、小学生の頃の自由研究で車の新聞(図鑑丸写し)を作ったりしていましたが、F1は市販車ではないので馴染みがなく興味がありませんでした。しかし車のドキュメンタリーでも見ようかと思って見てみた「Drive to Survive」が面白く、今シーズンはじめのプレシーズンテストからDAZNを契約して視聴開始しました。
モータースポーツを視聴したこともなくF1のルールも全く知らず「DRS?なにそれ?」状態で見始めたのですが、今となっては起きてはまずニュースを検索し、formula1.comの英語記事をDeepL翻訳に放り込んでみたりとすっかりドハマりした1年でした。
単純に速い遅いだけではなく、背景の政治や資本、ドライバーの社会活動、環境問題、ジェンダー問題を抱えているF1が何をして今後どうなるのかという部分も非常に興味深いのです。
なんていったってF1はヨーロッパ発祥のスポーツで、西洋中心かつ男性中心の脳みそまでマッチョ思考な感じです。大金がかかる資本が物を言う世界、さらに時代に完全に逆行する内燃エンジンと、時代齟齬の塊な要素がてんこ盛りのF1が、自身の問題と向き合い始めているここ数年は、きっとその問題提起と合わせて面白いのでしょう。
視聴1年目の若輩者なので、間違いがあったら教えて下さい。
今季ドライバーズチャンピオンシップ争いに敗れた、7度のチャンピオンを獲得してきたルイス・ハミルトンは黒人として初めてF1ドライバーになった人物です。2020年にはアメリカで警察官に取り押さえられ殺害されたジョージ・フロイド氏の事件をトリガーとして強まったBLM運動をF1内でも発信し、その一環として彼の所属チームのメルセデス AMG ペトロナスの2020年の車のカラーリングも従来のシルバーからブラックに変更されました。
またF1運営としても2020年から#WeRaceAsOneというキャンペーンを掲げており、人種問題、環境問題、Covid-19との戦いなどを一つになって取り組むという態度を表明しています。
F1は女性もドライバーになることができますが女性ドライバーは20人中0人です。以前にも女性ドライバーはいたようですが、1992年のジョバンナ・アマティ(予選落ちで決勝は未発走)を最後に何十年もいないのが現状です。なることができるのに、なれる人がいない理由は「女性には向いていない」という意見があることも背景にあるでしょう。ルイス・ハミルトンも「黒人はF1ドライバーになれない」と直接言われる事が多かったと言っていますが、女性ドライバーもまた、そのような問題と日々直面しているはずです。
(引用: https://wseries.com/about-w-series/)
その状況を変えるため、2019年にW Series(https://wseries.com/about-w-series/)という女性ドライバーのフォーミュラカーレースのシリーズが出来ました。このW Seriesは賛否が別れ、男女の境界を作り分断を強めるという批判もありました。女性ドライバーからも女性を「隔離」することになるという声もありました。
もちろんそういった側面もありますが、私としては美術の展示で男女比を5:5にすることと同様に「処方箋」として必要な事だと思っています。明らかに男女比がおかしい現状は患っている状態でしょう。ドライバーに限らず、チームのエンジニアも女性の比率が極端に少ないことを考えても、性別によって職業を選択できなかったりさせてもらえなかったり、出来ないとされたりする背景があると考えられます。
コンストラクターズチャンピオンシップを8年連続で獲得しているメルセデス AMG ペトロナスのチーム内でも、2020年の段階では少数民族に属するとされる従業員はわずか3%で女性従業員はわずか12%だったようです。
(https://www.formula1.com/)
人種問題でのルイス・ハミルトンを始めとして、社会問題に言及するドライバーが何人もいます。その中でも特に活動的なのが4度ドライバーズチャンピオンシップを獲得しているセバスチャン・ベッテルです。彼は持続可能な社会構築や環境問題に強く関心を持っており、オーストリアでは2021年はミツバチのホテルを子どもたちと作ったり、イギリスではグランプリ後のサーキットのゴミ拾いを行ったりしています。
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特に興味深かった活動として、ハンガリーグランプリのレース前に行われた#WeRaceAsOneのセレモニーにLGBTQコミュニティへの支援のため、レインボーのTシャツを着て参加しました。ハンガリーグランプリの少し前にハンガリーでは「反LGBTQ法案」が可決され、性的マイノリティーへの権利が強く制限されることになり、その法案への反対運動として起こした活動でした。
他にも、サウジアラビアグランプリが開催される少し前に、サウジアラビアで女性のカートレースを開催しました。サウジアラビアでは2019年になって女性が自動車を運転する事ができるようになったという背景があり、サウジアラビアの人権問題への運動として行ったものでした。このときの言葉で印象的だったのは
「結局のところ、僅か2・3日しか過ごさない国で、国の背景や人々の事を正確に知らない状況で完璧なジャッジを下すのは僕らにとって本当に難しい事だと思う」
(引用: https://formula1-data.com/article/saudi-arabia-preview-vettel-2021)
というものです。彼は社会問題に対してただ発言するのではなく、サウジアラビアに滞在していることを利用して彼女らとコミュニケーションをとり、現状をよりよく理解しようとしました。
電気自動車の開発が進むこのご時世には、内燃エンジンでレースをするという事自体が批判の的になるでしょう。事実HONDAは今季を持ってF1を離れ、カーボン・ニュートラルの技術開発に人材を投入することとしました。
F1も2014年からV6ターボ+ハイブリッドシステムのパワーユニットを導入しました。「走る実験室」と評されるF1マシンでの技術開発はめざましく、今は熱効率は50%を超えて、ハイブリット車の代名詞のようなプリウスの40%に比べても高効率なのがわかります。
(引用:https://formula1-data.com/article/f1-hybrid-engines-efficiency)
F1には、熱効率を高めるため排気の熱を電気エネルギーに回生する「MGU-H」というシステムが開発され搭載されています。しかしこのシステムが高コストで市販車に転用出来ないという大問題を抱えており、自動車メーカーとしてはF1で開発した技術を転用するというメリットがなくコストばかりがかかるということで参入できない問題が起こっていました。この「MGU-H」は2026年からコストの問題から廃止が決定しており、熱効率が下がってしまうのは私としては少し残念な気持ちもあります。
電気自動車のフォーミュラシリーズのFormula Eもありますが、DAZNでは視聴できないので気になりながらも追えていません。同じく電気自動車のラリーシリーズのEXTREME Eも2021年から開催され、こちらはDAZNで視聴出来たので見てみましたがラリーのルールもわからず英語もわからずしっかり見れたわけではありません。ですがEXTREME Eは開催地が環境問題を抱えている砂漠や海岸、氷河などで、その地を電気自動車で走るというコンセプトがとっても面白いです。また、ドライバーは男女1名ずつで1チームとするなど、男女問題に対しても言及しており、新しいモータースポーツとして注目されています。人種問題などの活動をしているルイス・ハミルトンがチーム代表として参戦しており、彼の元チームメイトで2016年の世界チャンピオンのニコ・ロズベルグも同様にチーム代表として参戦していたりするので気になっています。
もちろん、競技そのものはべらぼうに面白く、HONDA LAST YEAR、日本人F1ドライバー7年ぶりで開幕した今シーズンはチャンピオンシップ争いの激化だけではなく中団、下位チームの健闘もどれも面白かったです。私は今シーズンから視聴し始めたので比較できませんが、実況解説陣が声を揃えて今シーズンは面白いと言っていたシーズンでした。そのへんのディティールは個人的に楽しんでおきます。
来シーズンはレギュレーションが大幅に変更しますしドライバーのラインナップもワクワクする感じでシーズン開幕が楽しみです。
では、良いお年を。