「ファッションの流行は、1年前から決まっている」
ということを聞いたことがありませんか?
実際、そうです。
すべてはニューヨークはマンハッタンにある5番街(Fifth Avenue)や、パリのシャンゼリゼ通りの住人たちが決めるのです。
住人、といってもブティックやブランド旗艦店の経営者たちのことを指します。
ことマンハッタン5番街周辺は、最新カルチャーと富のすべてが集中しているというか、メトロポリタン美術館やニューヨーク近代美術館(MoMA)を頂点とする美術館があり、超有力なギャラリー(ガゴシアン、ペースなど)がいくつもあります。
つまり、文化的なものは、すべてここから発信されているわけで、逆にいえば、ファッションの経営者やギャラリストのさじ加減で、売れたり売れなかったりと流行を作っているわけです。
で、それを作るのはアーティストでもデザイナーでもありません。
誰か?
「店を動かしてる、ユダヤ系の人間なんだよ。そいつらが世界を動かすんだ」
と、日本に住むユダヤ系アメリカ人の友人から直接聞きました。
彼はコロンビア大学を出て、実際に5番街のブティックで働いていましたが、「なんかこの世界イヤになってきた。侘び寂びの世界へ行きたい」とひょんなことで我が国にやって来て私と出会い、そのまま飲み友になったのです。
「えっ、じゃあ、あんたもだろ?」
と問い詰めたら、
「ああ、そうだよ。黒いのも白にできた」
と懐かしそうに笑っては、ホッピーを飲み干し、串焼きを頬張ってました。
現在、ユダヤ系の総人口は1400万〜1500万程度と言われます。
その比率が最も多いのは、もちろんイスラエルですが、アメリカはじめ世界中に点在しています。
日本という極東の地にまでいるんですからね。
ただ、「ユダヤ人」という定義が非常に難しく、ユダヤ教を信仰している者を指すのか、あるいは民族・家系的なものなのか、曖昧なのです。
基本的に、ユダヤ教というのは母系社会なので、「母親がユダヤ人だったら、その子供もユダヤ人となる」というのがイスラエルの帰還法としてあります。
ただし欧米では、母親以外、すなわち父親や先祖や近い親戚がユダヤ人だったらユダヤ系◯◯人となる、という解釈も多いです。
なので当然、ユダヤ系日本人もいるわけです。
私は昔からユダヤ人に強い関心を抱いていました。
20世紀前半のナチス襲来まで、ユダヤ人大活躍の地たるウィーンに滞在して、いろいろ見て廻ったものです。
知りたかったのは単純で、「なぜ、ここまで天才が多いのか?」という点。
「ユダヤ人といえばだーれだ?」
と聞かれて、読者様はなんと答えますか?
アインシュタインがまず出るのは間違いないですね。
で、スピルバーグ、フロイト、マルクス、スピノザ、アーレント、レヴィ=ストロース、トロツキー、マーラー、メンデルスゾーン、ノイマン、ウィトゲンシュタイン、キッシンジャー、カフカ、ディラン、ロスコ、バーンスタイン、オッペンハイマーはじめマンハッタン計画で原爆作った大半の連中、グーグル作ったペイジとブリン、人工知能の父たるミンスキーとマッカーシー、チョムスキー、ドラッカー、ザッカーバーグ、ゼレンスキー…………
今、ぱっと思いつく限りぱっと出して見ましたが、なんでしょうか、これ…………
たまに、「ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズもユダヤ系だ!」というのがありますが、それはデマです。
私の知る限り、出典がありません。
上記に挙げた著名ユダヤ人も、気になるならお調べになったら良い。キリスト教など他宗教に改宗したり、そもそも無神論者になった人もいますけどね。
いずれにせよ、その人口比から考えて、ありえない天才数を誇っているのは間違いないのです。
なぜここまでの天才が生まれたのでしょう?
「4千年に渡る流浪の民ゆえ、弾圧に備えて教典を頭に叩き込み、かつ同教徒のコネクションを強力なものにしないといけない。そうしないと滅びてしまう」からと私は推論します。
ヨーロッパにおいてユダヤ人への差別と偏見は大昔からありましたが、彼らが選ぶ職業は、弁護士や医者といった士業や金融業や経営者といったのが有名です。これらは頭脳労働であると同時にお金も稼げるので、その子供にも教育熱心となるのは当然。実際、カール・マルクスの父親はラビ(ユダヤの祭司)にして弁護士という人でした。
「才能とは何か?」
「遺伝と環境が作るもの」
そんな文言を読んだことがありますが、まさしくその通りなわけで。
冒頭の5番街の話に戻りましょう。
「5番街(正確にはチェルシー地区)のギャラリーもブティックもユダヤ人が仕切ってる」(by 日本在住のユダヤ系アメリカ人)
とは書きましたね。
第二次大戦後、ヨーロッパからアメリカにすべての物が移って、その陣頭指揮をしたのは言うまでもなく亡命ユダヤ人です。
アートの世界でいえば、マンハッタンの超高級住宅街に画廊を作って、金持ちに売れば良い。
そんな当たり前の発想が浮かびます。
同時に、「新世界から新たな芸術を産まなければならない」という命題。
ここまでアーティストが登場しないのが面白いところ。
画商が声をかけたのは、クレメント・グリーンバーグやハロルド・ローゼンバーグといった著名美術批評家です。
この2人も、もちろんユダヤ系。
彼らがいなかったら、ジャクソン・ポロックは絵の具をグチャグチャに撒き散らした何かに過ぎなかったし、デ・クーニングはド下手な落書きとしてしか解釈されなかったでしょう。
しかし、上記2人を代表する美術批評家は言いました。
「これこそ、新しいアートなんだ!」
いわゆる「お墨付き」をやったんですね。
そしてユダヤ系ギャラリストたちは、セレブに売り込みます。
結果、大金が入る=権力を持つ=世界のアートを左右する……そんな構図。
それぐらい5番街ギャラリストの力は強烈なんです。
実際、草間彌生がこの20年で世界評価を得て価格が急騰したのも、3大ギャラリーのひとつ「ガゴシアン」に所属したからだと言われています。
ちなみに、欧米のアート専門誌では毎年、アート関係者のランキングを作ります。
が、一番有名ですかね。
年にも寄りますが、アーティストより批評家やキュレーター、そしてギャラリストが上位を占めることが少なくありません。
最新の2023年度は、ナン・ゴールティンがトップです。
ちなみにこの写真家も、ユダヤ系であります。
世界的アーティストになるには、「100人の村」に入村しないといけません。
つまり、アーティストの椅子は世界に100脚。
そのイス取りゲームで勝つにはどうしたら良いか?
「とりあえず、ユダヤ人と仲良くなっときゃ良いんだよ」
と、先述の日本在住ユダヤ系アメリカ人は、いいちこ焼酎の水割りを作りながら言ってました。
「あいつらのコネクション力と戦略は異常。だから仲良くなっとけば、いずれチャンスが回ってくる。でも単なる損得勘定だけでは動かないんだ。意外と情に深くてね。だけどそれって、日本人も同じだろ?」
まあそうだね、と私は塩らっきょを口にして頷きました。
私は村上隆の本やインタビューを、ほとんど読んでいます。
本人を目の前にした講演もかなり行きましたし、直接質問もしました。
勉強になることは、たくさんあった。
ですが、上記に書いてきた流れというか、ユダヤ人云々については私が知る限り見聞きしていません。
せいぜい「武器商人にも作品売ってるから、戦争反対とか無闇に言えないんですけどね」みたいな発言があったぐらい。
村上隆は昔から「アート業界のルールを壊したい」と言っています。
そのため彼は戦略を徹底して練り、アメリカに突っ込み、晴れて「100人の村」の村人になりました。
おそらく、この時にたくさんのユダヤ人ギャラリストとコネクションを作ったのでしょう。
まさに、虎穴に入らずんば虎子を得ず。
100年後、世界史の教科書(美術ではない)レベルで参照される作家の一人として、葛飾北斎以来300年ぶりに登場します。
それはそれとして、なぜ村上隆たるものが、ユダヤ人とアートの超重要課題を出さない?
それこそ、アート業界のルールを壊す鍵なのでは?
最後に。
ユダヤ系がいろんな分野の頂点にいるからといって、私は「ユダヤ陰謀論」みたいなクソバカなことは絶対に口にしません。
陰謀論信じる人って頭悪いじゃないですか、人工地震やらコロナは人口減少のため撒かれたウィルスだ、とか……
それってどこに根拠があるんですか?
リテラシーがあまりに不足していますよね。
そう問い詰めても、支離滅裂なトンデモ理論が発せられるのがオチです。
あと日ユ同祖論とかね。
こういうの信じる人が、雑誌『ムー』の広告ページにあるような怪しい商品買っちゃうんでしょうか。
ま、ユダヤ人団体にうるさいのもいるのは本当ですけど。
「氣志團の特攻服がナチの軍服に似てるからやめろ!」
とかね。アホですね。
本当はビートルズのマネージャーだった、ブライアン・エプスタインについてまで書きたかったのですが、字数が長くなってしまってるので次回!